武道と格闘技の違い

前回のブログの内容に対して質問をいただきましたので、なるべく的確にお答えしたく、考察も交えて綴ってみたいと思います。

1.武道(武術)の概要

Wikipediaによれば、
“武道は(中略)、人を殺傷・制圧する技術に、その技を磨く稽古を通じて人格の完成をめざす、といった道の理念が加わったもの。”とあります。

武道は、以前は武術と呼び、元を辿れば戦国の世で勝ち上がるための殺人術でした。
その中で最も代表的なのが剣術です。(戦場では槍や鉄砲がメインとなって行きますが、刀のもつ携帯性と武士道を象徴するその形態から、鍛錬法として根強い人気があった様です。)

剣術の求めるところは、自分が斬られずに相手を斬る事にあります。

そこから「機」を制する(機先)という概念が発展し、相手の発する気配を読み取る事が重要になりました。

また江戸時代には武士としての規則が厳しくなり、簡単には刀を抜く事ができなくなりました。
例えば「士道不覚悟」という罪があり、何か諍いがあって相手が刀を抜いて襲って来た時に、もし立ち向かわずに逃げたりしたら、自分が罰せられます。逆にこちらが刀を抜いた時、相手を打ち損じた場合も罰せられます。

これはもちろん無闇に刃傷沙汰を起こさないために定められた規則なのですが、これにより、たとえ危機が近づいて来ていてもギリギリまで抜いてはならない条件を武士に課すこととなり、その中で「鞘の内」つまり居合術が発達していきました。

2.武術の目指すところ

合気道を含む古武術は、組討(体術)と居合術とを融合させた関口新心流を汲んでいることもあり、居合術同様に居付く事を否定し、力のぶつかりを嫌います。

武術的に言うと、ぶつかり合った時点で手遅れなのです。

正面きってぶつかり合うことは、その瞬間、お互いに致命的な刀傷を負うことになり、それはどちらも望まないことなのです。
そのため、稽古においては相手に機を制されたと悟った時、それ以上頑張らずに間合いをとって次に備えます。

機を制する事を鍛錬するのが稽古であって、終わった後(居付いた状態)で頑張ってもしょうがないという考えです。

その辺が、武術を格闘技として捉えた時に感じる違和感につながるのではないでしょうか。

3.武術の到達点

一方、格闘技は
“主に自分の体での攻撃、防御を行う技術、もしくはスポーツ、あるいはそれを基にした興行のことである。”(Wikipediaより引用)
とあります。

つまり、正面きって互いの肉体で攻防を繰り広げることが前提となっています。

先程も申し上げましたが、武術的観点ではぶつかり合いはNGでありバッドエンディングなのです。

また、心理的負担の面からも、最も避けるべき事態である「相討ち」に次いで「敗北(討死)」、「辛勝(受傷)」、「勝利(殺害)」、「引分け(互いに生還)」、「勝負無し(互いに無傷)」という順序で理想とされる平和的解決になっているところも、スポーツや戦闘術と異なる部分だと思います。
(山岡鉄舟の開いた無刀流*の概念や、伝説の武道となっている無住心剣流の「相抜けの極意**」からも、武術の到達点が不殺へ向かっていることが伺えます。)

「無刀流*」…剣気や身のこなしによって相手を圧する事で、刀を抜く事なく制する、あるいは互いに実力を認め合い、場を収める。


「相抜けの極意**」…絶対不敗と言われた無住心剣流剣術を極めた者同士が立ち合うと、互いの剣撃が当たる事なくすれ違ってしまうことを相抜けと言った。

4.スポーツとしての格闘技について

格闘技といっても幅広いですが、ボクシングなどのスポーツの中の格闘技については、互いにルールに則って、限られた部分を使って限られた部分を攻撃します。
そういった制約が有るからこそ、アスリート達は必要な筋肉を効果的に鍛え上げ、減量し、スピードと精密さを限界まで追い求めます。

そこには限界に挑戦する美しさがあり、感動があります。

それはもしかするとスポーツならではのものかも知れません。

5.まとめ

限界に挑み勝利を追い求める”格闘技”なのか、勝利を求めず共利共生を目指す”武道”なのか、どちらを取るかは人それぞれの好みなので、どちらが優位かを求めるものではないと思いますが、これらが相異なるものだという事は知っておくべきだと思います。

武道を格闘技のステージで語る時、あるいは格闘技を武道のステージで語る時、そこには相当の認識のズレが有るという事を知らなくてはなりません。

6.補足

格闘技においても武術の理合を取り入れることはできますが、それは勝つためのテクニック(手段)であって目的ではありません。

武術の理合を探求し、それを人間形成に活かすことが武道の”道”の部分だと思います。

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